走り続けるばかりが旅ではない、の巻。 [BMW R nineT]
秋は一番好きな季節だ。
気温を考えれば春も似たようなもののはずだけれども
これからいいことばかりが続きそうな空気が蔓延していて、少し鬱陶しく感じたりもする。
その点、秋の景色は静かで控えめで、健気なのがいい。
「今年も色々と楽しかったですね、でもちょっと疲れたでしょう、さてもうすぐ冬ですねぇ...」
秋の旅には、そんな空気が漂っている。
慰安旅行には素晴らしく相応しい時期なのだ。
少し前から、我々三人でこの時期に「慰安旅行」に出掛けるのが恒例になっている。
2011年秋は奥蓼科温泉、2012年秋は、紅葉の秋山郷を訪ねて馬曲温泉、
2013年秋は能登へ出掛けて窓岩の近くに泊り、
去年の秋はラスカルさん抜きの番外編で開田高原をYASHさんと走っていた。
ということで、今年も凸凹仲間と見知らぬ場所に向ってみることに。
行き先や見所のシナリオ造りは、去年体調の問題で出掛けられなかったラスカルさん。
3人揃わなかった去年は、静かにYASHさんと日帰りの散歩だったから
今年は久々にしっかり走って、ゆっくり温泉にも浸かって楽しむことにしよう。
こういう旅にはオリバー君=R100R Mysticとこれまでは決めていたのだけれど
今回はR nineTがどの程度旅の足として使えるのかを試してみることに。
ここ最近付けていたシングル・シート・カウル風の小振りなバッグの代わりに
純正のテール・バッグを付け、その中にいつもの旅行鞄を押し込んでみる。
このバッグは想像以上に容量がたっぷりとしていて、
帰り道のお土産などもしっかり飲み込んでくれた。
一泊なら十分な大きさだ。
木祖村の道の駅で待ち合わせて、開田高原へ。
この日は気温も高めで、暖か過ぎず寒過ぎず、何とも心地よい。
陽射しを受けて輝く紅葉の中を走り抜けて、高山へ。
平日でも高山の市街はそぞろ歩きを楽しむ観光客で一杯。
この後目指しているのは富山なのだから、昼食は何か適当なものでも....
なんて思ってしまうと、いつもの一人旅と大して変わらないことになる。
ラスカルさんが下調べしておいてくれた店に辿り着くと、
観光客のひしめく路地から1本入っただけだというのに
意外なほど静かな素敵な空間だった。
「舩坂酒造店」の奥にある「御食事処味の与平」というお店。
建物を外から見た感じでは、古い酒蔵か何かをリフォームして店舗に改装したらしい。
せっかくなので、飛騨牛のすき焼き御膳を頼んでみると、なかなかに旨かった。
お店の環境とお値段を考えると、ちょっと出来過ぎという気がしたくらい。
機会を作ってまた訪ねてみようと思う。
眠くなってしまうほどの満腹ではなく、路地を行く人力車の後ろ姿に見とれているうちに
まだ旅の始まりだったことを想い出す。
☆☆☆
YASHさんが「日本海まではまだ150kmあるよ」と言うのに少しはっとして
東海北陸自動車道で五箇山や白川郷周辺の山々を抜け、富山からは北陸道に乗って、滑川の海岸へ。
ここではっきりと感じたのは、風防の付いていないR nineTで
高速道路を制限速度+αで走り続けるのは、あまり楽しいものではないということだった。
高速ツアラーのRTやオールマイティなTDM900と同じようなペースで走ろうとすると
意外なことにMysticの方が高速域では数段快適だったように思う。
エンジンのパワー自体にはまだまだ余裕があり、車体もしっかりと路面を捉えているのに、
4速で走る速度域で、もう風圧がどうしようもなく辛くなってくる。
5速はたまに入れる程度、6速はトンネルの中など風圧が和らぐ一瞬しか使う機会が無い。
やはり手に入れた時の印象通り、このマシンは山道を駆け上がったり
目的もなく田舎道を走るのには素晴らしく向いているけれども
目的地まで最短距離を高速道路で一気に目指すような走り方をしても楽しくはないのだ。
というような事を歯を食いしばって考えているうちに、ようやく料金所がやって来て、海辺に出た。
さっきまで、あれほど高く澄んでいた青空がいつの間にか隠れてしまって
どこまでも低くどんよりとした雲に覆われている。
でも、日本海って自分にとってはいつもそんなイメージだ。
YASHさんの期待していた北アルプスの険しい山並みは、たぶんこの霞の彼方。
でも、ワタクシはここでヘルメットのシールドにぽつぽつと細かな雨粒が当たり始めるのを感じて
妙にほっとした気分にもなっていた。
二日間の旅なのだもの、山あり谷あり、少し変化があった方がいいのだ。
明日の朝は果たして晴れてくれるのか、スリルがあっていい。
シックな革の上下を新調したばかりのラスカルさんと、
コンパクトにまとめていても装備に怠りの無いYASHさんは、ここで雨具を装着。
ワタクシは...雨具などというもの自体を持ってきていない(笑
☆☆☆
海辺から宇奈月温泉を目指し、内陸に入って1時間もしないうちに宿に到着。
温泉街の手前に一軒だけ建つ比較的大きなホテルで
到着するとロビーに着物を召した女将さんが挨拶に立っているという
ちょっと懐かしい雰囲気のある宿だった。
夕食は海の幸と、地元の豚肉のしゃぶしゃぶ。
卓上で一人ずつ炊いて食べる白米がなかなかの旨さで、
量も我々には適度だった。
苦しくなるくらいの量は全く要らないので
こういう目で楽しめる食事はありがたい。
部屋に戻って少し寛いでから、温泉へ。
ああ、肩と背中がこわばっていたのだとその時に気が付いた。
普段よりも時間を掛けて湯船に浸かり、部屋に戻ってから持参したウィスキーを飲んでいるうちに
二人よりも先に布団へ。
ここ数ヶ月で一番早かったのではないかというくらい、何も考える間もなく深い眠りに落ちた。
熟睡したおかげか、目覚めたのは5時すぎ。
窓から見える向かいの山の輪郭が少しずつ現れ始めて
山肌の紅葉の色が判るくらいの時刻になってから、再び温泉へ。
朝になると男湯と女湯が入れ替わっていて
露天からは、深い山の濃い緑の中に
所々紅や朱色が散りばめられている様子を眺めることができた。
程良い量と品揃えで、気持ちの良い朝食だった。
軽く干した魚を炙って、美味しいお米で食べる幸せ。
この時期の宿としては格安だったようだけれども、
オートバイも従業員用通用門のような屋根下の場所に停めさせてもらえて
何とも平和で快適な宿だった。
身支度を整えて外へ出ると、再びの快晴。
昨日に続いて、また暖かくなりそうな予感。
温泉街を通り抜けて宇奈月温泉駅まで出て、
目的のもう一つ、「黒部峡谷鉄道」の駅へ。
オートバイ用の駐車場スペースもあり、一回の利用料は400円。
Harley-Davidsonのトライクが2台停まっていた。
黒部峡谷鉄道の機関車は、遠近感が歪んでしまったように感じるほどの小ささ。
YASHさんとも話していたけれども、多分ラスカルさんが企画していなかったら
わざわざ時間を使ってこういうものに乗ってみようとは思わなかっただろうと思う。
停車駅としては二つ目の「鐘釣駅」まで行って、そこで20分ほど過ごしてから帰って来ることにする。
▲富士フイルムのXF1で撮ってみた「後曳橋」(一つ目の停車駅「黒薙駅」のすぐ先)の様子はこちらで。
▲二つ目の停車駅、鐘釣駅でのスイッチバックの様子。
ベンチ・シートで剥き出しの客室の感じといい、
大したスピードが出ていない割にはガタゴトという振動の激しさや目の前に迫る岩肌などのおかげで
なにやらディズニーランドのアトラクションを長時間楽しんでいるような気分にもなってくる。
感心したのは、車内の案内放送がよく考えて作られていること。
地名の由来や、次々に現れる険しい景色を写真に撮るためのタイミングを教えてくれたり
深い峡谷を見下ろした先に拡がる水面が何故エメラルド・グリーンに見えるのか、
なんていうことも説明してくれて、こういう放送にありがちな煩さを感じさせない。
宇奈月温泉駅近くまで戻ってくると、遠くに見えるホテルの従業員らしい人なども
こちらに向かって手を振っている。
この土地の人々が、皆で本当に「また来てくださいね」と思って過ごしているように思えて
なんだかとても良い体験をしたように感じたのだった。
至極後味の良い黒部峡谷鉄道の小旅行を終えて、一路糸魚川へ。
マシンを離れている間に、もうすっかり昼近く。
YASHさんが下調べをしておいてくれた地元民御用達の回転ずしの店は何故かお休み。
気を取り直して辿り着いた海岸線沿いの割烹料理の店で、「8種の海鮮丼」を。
いきなり飛び込んだにしては上出来の味で、海辺はやっぱり良いなぁと思ったのだった。
国道に面した窓際はカウンターのようになっていて、
夜はアルコールでも出すのだろうか。
眼鏡を外して、しばらく外の碧い景色を眺めていた。
ぽかぽかとした暖かさがまだ残っているうちに、国道を南下して小谷村から白馬村を抜けて安曇野へ。
夏の大きなイベントの仕事で来たばかりのせいか、白馬まで辿り着くと
もうワタクシにとっては生活圏内という気分になる。
地図を広げてみると、小谷~白馬から西へ山を隔てたすぐ先に黒部峡谷~宇奈月温泉はある。
数十キロの距離だというのにクルマで行き来できないほどの険しい山脈。
この先、この区間がトンネルなどで結ばれることはあるのだろうか。
まだ明るさが残っているうちに安曇野まで戻って、最後の休憩。
いつもこういう旅行のプランを練っておいてくれたり
観るべき場所を色々と考えておいてくれる二人に感謝して、
自分は一足先に家路へ。
多分、好みも性格も違う三人だからこそのバランスが心地よいのだろうな...
などとこの二日間の出来事を思い返しながら、早々に目を閉じて横になった。
楽しい時間は一瞬、と言うけれども、今回はとても長い時間を過ごしたような
不思議に濃い印象の旅だったように思えた。
今年の秋も、極上オトナサマ旅ですねー☆
おいしそうなお食事ばかり、なぞって行ってみたくなりました。
オレンジ色の小さなレトロな!黒部渓谷鉄道がとってもかわいいです。
パッチワークのような紅葉を眺めながら、雰囲気のいい橋を渡って、
ほんと、いい旅だなぁ。
おいしいお土産を詰めた帰りのバイク、うきうきしちゃいます。
by knacke (2015-10-28 22:15)
☆knäckeさん、今回のルートね、電車乗り継ぎとかクルマでも行けそう
なんだけど、やっぱりオートバイで気温や空気の匂いが変わっていくのを
感じながら移動すると、また楽しさ倍増なのであります。
峡谷鉄道の機関車はほんとにミニチュアみたいで、途中でたまたま
すれ違った「ED9」という機関車は1934年製造なんだとか...
今回は、宿のお土産コーナーの妙齢のおばさまにお勧めされた
「温泉街で作っている唯一のお菓子」を真面目に買って帰りました(笑
餡子を薄い羽二重餅でくるんでから紫蘇の葉で巻いて蜜に漬けたという
しっとり古風な和菓子。美味しかった♪
by harry (2015-10-29 00:34)
こんにちは。
秋の大人旅 乙でした。
色々な楽しみがあって良いなぁ。
by HIRO (2015-10-29 11:25)
☆HIROさん、おはようございます。
一人だと、ひたすら走ってるだけになっちゃうものですけど
こういう時間の楽しみ方も良いなぁと思ったのでした。
深い紅葉を車窓から楽しむのも悪くないですね。
by harry (2015-10-30 07:28)
私も例年よりいろんな風景が思い出されます。
天候は場所によってけっこう違ったし、途中でこの天気では…と思った
海辺も、後で思えばいいアクセントになりましたね。
自分にとっては慰安旅行と言うより、なにか自分では気が付かない
事を見つけに行くバイク旅、という感じがしています。
今回のトロッコ列車はまさにそれでした。
逆に一人じゃないと感じ取れない事、というのもあるんですが、
どちらも大切にしたいと思っています。
これからもそんな旅を続けたいですね。
by YASH (2015-10-30 19:15)
☆YASHさん、なんだか盛り沢山でしたよね。
普段一泊で出掛けても、途中の景色はなんだか忘れてしまうことも
多かったりするんだけど、今回は開田高原も高山の風景も、
帰りの糸魚川から白馬への道も、何処も印象深かったし。
ちょっと怖かったのはあの逆走車(笑)。
あの時クラクションを鳴らしたのは、もしかすると自分は正しい方向を
走っていると思い込んだ逆走のご本人だったのかも...と思ったりして。
思い込みって本当に怖いな、というのも今回の教訓なのでした。
次回は全く見知らぬ方角を目指してみたいな、と思ってます。
色々考えてみますね♪
by harry (2015-10-30 23:36)
毎年のツアー、今年も愉しい時間が伺えます。
気のあった友人と旅行は愉しいですよね。
お三方とも、それぞれに気配りがあって、素敵です。
こういう旅行はわたしもしてみたいなあ。
by ナツパパ (2015-11-02 13:34)
nineTだとやっぱり旅には厳しそうですね。
我が家はRTが出せない状況でもK-Rも空力特性が良くスクリーンの効果もありそこそこ旅力があるのはありがたいです。
黒部峡谷には以前から興味があって・・・
いつか旅したいと思っていました。
あと一週間先だったら紅葉がピークだったみたいだけど(笑)
トロッコは楽しめたので次回は相方とノンビリ奥地の温泉へ泊まろうと思います。
食事もイロイロと美味しく良い旅だったなぁ。
by rascal (2015-11-02 19:27)
☆ナツパパさん、今年もいつもの顔ぶれで集まることができて
それだけでもなんだか和んでほっとした気分でした。
「何だか知らないけどこんな乗り物が好きになっちゃったんだから
しょうがないよなぁ...」とでもいうような大前提が何処かにあって
その上であーでもない、こーでもないと楽しんでいる感じで
熱くなり過ぎないのがまた良いんです(笑
黒部峡谷鉄道は、なかなかに楽しめますよ。是非一度!
by harry (2015-11-04 00:57)
☆ラスカルさん、まあそれを確認しに行ったようなところもあったんだけど
想像以上に高速道路の向かい風は厳しかったですねぇ。
でも、山道での「路面から近いスポーティな感触」は捨てがたいので
これまで以上に山道専用マシンとして楽しむことにしようと思ってます。
自分は深い緑の中にちらほらと紅葉が浮き立つような景色が好きなので
今回のタイミングはとても良かったですよ。
食事は本当にちょうど良い量と面白い品揃えで楽しかったね。
次回はまた全く違う方角に行ってみましょう。
by harry (2015-11-04 01:03)
いいルートですね!
それに、美味しいものは重要w
その点も素晴らしい〜
なんかツーリングでの食事って
すごく美味しく感じる気がします。
黒部のトロッコに乗られたとは!!
僕は乗ったことないんですが、なかなか良かったようですね
やっぱり、実体験しないと本当の事ってわからないですよね!
あ〜、旅したいなぁ〜・・・w
by FTドルフィン (2015-11-04 06:43)
☆FTドルフィンさん、こんばんは。
ここ最近、我が家の近くを集合場所にしてもらっているおかげで
仲間の二人は自分よりもずっと長い距離を走っているんですけど、
自分にとってはちょうど時計回りに北アルプス周辺を一周したような感じで
景色と文化の違いを楽しめた旅でした。いいでしょ。
トロッコ、面白かったですよー。
何より、運営している人達がこの軌道に寄せる愛情が感じられて
乗っているだけで幸せな気分になりました。
途中で1934年製造の凸電「ED9」とすれ違ったんですけど、
これがまたカッコ良くて....
クルマででも、是非!
by harry (2015-11-05 00:11)
3は不安定な数とも言いますし、1を除いて最小で最も安定する数とも言いますし、どっちやねんという感じもしますが、ちょうど、いい具合なのでしょうね。
同じようなベースのRからの派生モデルなのに、MysticとnineTで性格が違うというのも不思議ですね。違うモデルなんだから当たり前だろうと言われるとそうかもしれませんけれど。
予報通りに雨が降っても、予想通りに傘の備えがないっていうKANの歌もありましたが、私の場合、雨具を持っているときには雨が降りにくいという謎めいたものがあったりします。それはそれで、泣けます。
by Nori (2015-11-12 22:44)
☆Noriさん、おばんです。
3人位だと意見が分かれても納まりやすいし、
一人欠けても二人いれば話が進むし、なかなかいいんです(笑
R100系とnineTとでは世代的にも4世代位離れてますし、
それぐらいエンジン自体は進化したということなんでしょうけれども
MysticとR1200Rを比べてら、概ね目指す傾向としては
変わっていないような気がします。nineTが異端なんです、きっと。
自分は雨具着るのがかなり嫌いなんですよね(笑)。
ツーリングに出掛けてから持っていなかったことに気付いたくらいで。
オートバイって、そういう計画的な配慮なんてものを
ぶち壊してくれる装置だと思っていたりして...
やっぱり予想通りに行かないことが楽しいんです。ね。
by harry (2015-11-13 00:36)
はじめましてYAMAMEといいます。
1月よりR9tのオーナーとなりいろいろブログを見てまわっています。
自分なりのカスタマイズをしようとあなた様のブログを見ているとホイールリムがシルバーであるのに気が付き、どのようにして塗装を剥がしたかお聞きしたいのですが。私もスポークホイールはシルバーでないと嫌なんですね!
よろしくお願いします。
by はじめまして (2016-03-12 11:51)
☆YAMAMEさま、はじめまして。
実は自分のnineTはR1200R-Classic用のホイールに前後交換してあります。
Rホイールは全くの同寸、Fホイールもベアリング周りの小物部品を
組み替えるだけで取付が出来てしまうのですが、
部品としては高額なのでちょっと現実的ではないかもしれません。
自分はたまたまnineTのブラックリムのホイールとの交換が成立したので
入れ替えてみた、というわけなんです。
あまり参考にならないお話ですみません!
by harry (2016-03-12 22:53)
harry様、情報ありがとうございます。たしかにR1200R-Classicのホイールはポン付けみたいですね。ネットで中古など探しましたが見当たりません。Classicの販売台数も少ないのでしょうね。塗装であれば溶剤で溶かすのも可能と思われますがアルマイトですとサンドブラストでしょうか?ディーラーに相談してみます。
いろいろカスタマイズの情報よろしくお願いします。
by YAMAME (2016-03-14 00:02)