SSブログ

転職人生-コスタリカでの生活。 [仕事と私]

村上春樹の小説、"世界の終わりとハードボイルドワンダーランド"のような
アンティグアでの静かな生活が終わって、
我々はそれぞれの任国へ。
Costa Ricaだ。
パナマの北、南北アメリカ大陸のくびれた所にある。
国の中央を南北に山脈が流れていて、首都サンホセはその太平洋側の高地にある。
私の配属されたナシオナル大学は、そこからバスで30分ほどの町、エレディアにあった。
日差しは強く、その割りに気温はそれほど上がらず。年中、初夏のような気候なのだ。
年の半分は、雨季。
といってもずっと降っているわけではなくて、毎日午後にスコールがあって、朝晩は晴れている。

ステイ先は老夫婦の家で、街外れの隣町へ通じる細い道路沿いにあった。
道路から少し下がって平屋建ての小さな家があり、裏手に少し芝生が広がっていて
その奥に長男と次男がそれぞれ家を構えていた。

お爺さんは酪農を営んでいて、毎朝早くから出掛けて、夕方私が帰ってくるともう寝ている
ということが多かった。恰幅がよく明るいお婆さん、セシリアは、冗談が好きで
他人を家に住まわすことに慣れて余裕がある感じだった。私は恵まれていたと思う。
セシリアさんの家には毎日新鮮な牛乳と、自家製のチーズがあった。

着いてしばらくのことは、頭がいっぱいだったのか、あまり記憶が無い。
何ヶ月かすると、セシリアさんの家はすっかり居心地がよく
「我が家」と思えるように自然に馴染んでいった。
授業が無い日の午後には、家と道路の間のテラコッタの敷かれた場所の椅子にかけて
のんびり本を読んだり、手紙を書いたりして。そうすると、買い物から帰ったセシリアが
「ココアでも、飲む?」と声をかけ、カップを二つ持って現れて、
二人でぼそぼそと
「いい天気ねえ」
「そうですね」
「授業はないのね」
「ええ、で手紙を書いてたんです」
「ちょっとみせて.....なんなの、この蛇が絡まったみたいなものは。これ、皆読めるの?」
「ええ、まあ」
「だめ、だめ。私には出来ないわ、こんなもの覚えるなんて。お母さんに書かなきゃだめよ」
「ええ、母にも書きます」
「じゃ、邪魔しないわ。それにしてもいい天気ねえ」
などという会話をして、彼女はキッチンに戻っていく。
本当に天気がいい。私の顔や腕も随分浅黒くなってきた。

街を歩いていると、どこからともなく「チーノ!」と呼ばれることがある。
Chino=中国人、という意味だ。
コスタリカに限らず、ラテンアメリカの人の多くはあまりアジア人が好きではないみたいだ。

可愛らしい子供に「チーノ、コッチーノ!」と囃し立てられたこともある。コッチーノ、は"汚い"。
店で普通に買い物をして、「チニート(=小さいチーノ)、どこから来た?」
と真顔で聞かれて、「悪いけど中国人じゃない、日本人だ」
と答えると、少し顔色が変わって
「日本か!日本はすごいよなあ、おれもトヨタ乗ってるよ。でもどこにあるんだっけ?」
「.....中国の近くの島だよ」
「あ、そうだ、中国の首都だな」
「ちがう、ひとつの国なんだ」
「へえ。でも車は一番だな。皆で作ってんだろ」
「いや、別に国中で自動車作ってるわけじゃなくて、ソニーとか...」
「ノオノオ、ソニーはアメリカだよ」
「........」

とにかくjapon=ハポンは工業製品でしか知らない、どこにあるかもわからない謎の国
というのが一般的なイメージなのだった。
やれやれ。


nice!(2)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 2

コメント 8

nori_blog

我々日本人から見ても、コスタリカは何処にあると問われて答えられないのですから、
その名を知っているだけでもよしとしなくてはならないのかも知れませんね。
by nori_blog (2005-03-02 21:48) 

harry

そうですね。中東も、アフリカも、東欧も、知らないところばかり。
この頃は「やれやれ」でしたが、だんだんそれで当然な気がしてきました。
日本も、あまたある国々の一つなだけですものね。
ということも、こんなことしてやっと実感できたわけなんですが。
by harry (2005-03-02 23:07) 

barbie

日本でさえ、自分の住んでるところから遠く離れた土地はあやふやです(これは私だけ?)ましてや中南米ともなると一層遠いですものね。でも中国の首都が日本とは・・・笑っちゃいました☆
by barbie (2005-03-03 01:18) 

nori_blog

その後いろいろと考えまして。
他人を許容するからと言って自分が怠けてよいわけでもないよなと。
人の振り見て・・・というのとはちょっと違うと思うのですが、相手を感心させるような
人間に、なれたらいいですねぇ。まぁ、限界はあるのですが。
そんなことを。つらつらと。
すんません。
by nori_blog (2005-03-03 23:04) 

bonny

上海の老舗ホテルのドミトリーにて、
アメリカから来た女の子に「ニーハオ」と挨拶されたのを思い出しました。
「アイム ジャパニーズ」と言ったら、
「コンニチワ」と合唱+お辞儀。
いやあの、、、それもちょっと違うんだけども。
でもイメージってそんな感じでしょうね。
例えば、ロシア行ったらコサックだろって思うし、、、
やれやれ
by bonny (2005-03-03 23:35) 

harry

★Noriさん、好きなこと、気が向いたことに没頭できるっていうだけで
 幸せなことではないでしょうか。Noriさんのページで食欲に関して
 日々小さな幸せをいただいてるワタクシとしては、感謝あるのみです。

★bonnyさん、今晩は。アルコール、抜けてますか(微笑
 そう、イメージっていつの間にかできあがってるんですよね。
 で、だいたい間違ってる(苦笑
 このあと、隊員たちの間で「中国人と一緒にされてむかつく」
 という話題が一時盛り上がったのですが、一緒にされたらなぜいやなのか
 中国人だったら嫌われていいのか、と議論が進んだのでした。
 そんなこともあって、私は日本で外国人を見かけても、最初は日本語で話し
 かけるようにしています。
 見知らぬ相手のことを決め付けるのは?という気がして。
by harry (2005-03-04 00:19) 

コスタリカって、面白そうな国だなぁ。
日本に帰ってくると、あの感動・向こうで学んだ事・・・意識してないと
忘れちゃいますよね。これが現実なのかなぁ、といつも寂しくなります。
by (2005-03-05 11:47) 

harry

私も普段は忘れてしまっています。
でも、何かのきっかけでまた思い返したりします。時々夢に出てきたりして。
でも、すべて現実だと思いますよ。
by harry (2005-03-05 12:19) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。